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1.木樵りの物語

Update : 2006年11月8日

検非違使《けびいし》に問われたる木樵《きこ》りの物語

 
さようでございます。あの死骸《しがい》を見つけたのは、わたしに違いございません。わたしは今朝《けさ》いつもの通り、裏山の杉を伐《き》りに参りました。すると山陰《やまかげ》の藪《やぶ》の中に、あの死骸があったのでございます。あった処でございますか? それは山科《やましな》の駅路からは、四五町ほど隔たって居りましょう。竹の中に痩《や》せ杉の交《まじ》った、人気《ひとけ》のない所でございます。

死骸は縹《はなだ》の水干《すいかん》に、都風《みやこふう》のさび烏帽子をかぶったまま、仰向《あおむ》けに倒れて居りました。何しろ一刀《ひとかたな》とは申すものの、胸もとの突き傷でございますから、死骸のまわりの竹の落葉は、蘇芳《すほう》に滲《し》みたようでございます。いえ、血はもう流れては居りません。傷口も乾《かわ》いて居ったようでございます。おまけにそこには、馬蠅《うまばえ》が一匹、わたしの足音も聞えないように、べったり食いついて居りましたっけ。

太刀《たち》か何かは見えなかったか? いえ、何もございません。ただその側の杉の根がたに、縄《なわ》が一筋落ちて居りました。それから、――そうそう、縄のほかにも櫛《くし》が一つございました。死骸のまわりにあったものは、この二つぎりでございます。が、草や竹の落葉は、一面に踏み荒されて居りましたから、きっとあの男は殺される前に、よほど手痛い働きでも致したのに違いございません。何、馬はいなかったか? あそこは一体馬なぞには、はいれない所でございます。何しろ馬の通《かよ》う路とは、藪一つ隔たって居りますから。
 
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